セルフコントロール(self-control)とセルフマネージメント(self-management)の関係について-その1

yohei11152012-08-09

 数日前からセルフコントロール(self-control)とセルフマネージメント(self-management)の関係について調べている。きっかけはこの両者の言葉関係である。それぞれの用語が何を示して、何を表しているのか、である。最近ではセルフコントロールは衝動性(impulsiveness)と対比され、選択行動で研究がされている価値割引に関しての用語としても使用されている。

セルフマネージメント(self-management)

 まずはセルフマネージメントについてであるが、この用語は発達障害児の支援において用いられることが多い(竹内・園山, 2007)。このセルフマネージメントのスキルとしてMace, Belfiore, と Hutchinson (2001)は自己管理スキルの下位過程として、自己教示(self-instruction)、自己モニタリング(self-monitoring)、自己記録(self-recording)、自己観察(self-observation)、自己評価(self-evaluation)、自己強化(self-reinforcement)、自己弱化(self-punishment)を上げている。

セルフコントロール(self-control)

 次にセルフコントロールであるが、Skinner(1953)は『科学と人間行動』で「生活体は、関数となっている変数を変化させることによって罰せられた反応を生起にしにくくするであろう。このようなことに成功した行動は、自動的に強化される」ことと定義している。さらにそこでは、コントロールする反応(controlling responce)とコントロールされる反応(controlled responce)に分けて分析している。ここでは個体のある行動(コントロールする反応)が環境の変数を変化させ、それが自らの別の行動(コントロールされる反応)の生起確率を変化させる。

 図示すると以下のようになるのであろうか。

 コントロールする反応が、コントロールされる反応の先行事象や後続事象を変化させ、コントロールされる反応の将来の生起頻度を変化させる。この生起頻度を変化させる行動に上述したセルフマネージメントスキルが適用される。

 ここまで見てみるとセルフマネージメントとセルフコントロールにはやはり大きな違いはないように見える。この2つの用語の使用はそれぞれが用いられる文脈で使い分けれれているようである(詳しくはもう少し調査が必要である)。

論文数の変動

 さて、ではどのようにセルフコントロールやセルフマネージメントやセルフマネージメントスキルの用語が使用されているかを調べてみた。なお、セルフコントロールは自己制御(self-regulation)とも言われるため、その用語についても調査した。調査対象はJournal of the Experimental Analysis of Behavior(Jeab)とJournal of Applied Behavior Analysis(Jaba)とした。この2つの研究雑誌は長く行動分析学の雑誌としてあり、また論文名やアブストラクトからワード検索が公式Webサイトから可能であり、また全文をPDFとして無料公開していることから調査対象とした。

その1

 1つ目にJeabで"self-control"、Jabaで"self-control"と"self-management"及び、セルフマネージメントスキルの用語("self-instruction"、"self-monitoring"、"self-recording"、"self-observation"、"self-evaluation"、"self-reinforcement"、"self-punishment")を検索ワードとした。集計はそれぞれ1960年代、1970年代、1980年代、1990年代、2000年代で行った。

 上図の通り、Jeabにおいて、"self-control"が1990年代に至るまでにかけて増加しているが、2000年代で減少している。Jabaにおいて、"self-control"は1970年代から1990年代にかけてあまり変化がないが、2000年代で急に増加している。それと比較して、"self-management"は1990年代に至るまでに徐々に増加していたが、2000年代に急に減少している。"self-manegement skill"に関する用語は1970年代に大きく増加しているが、年代を追う毎に減少している。

 Jabaでの2000年代の"self-control"の急な上昇は価値割引に関しての研究が増えてきたためであろうが、まだそこは調査しきれていない。"self-management"や"self-manegement skill"に関する用語が減少している点は気になるところである。

その2

 次に"self-manegement skill"に関する用語の個別の変化を見てみる。

"self-recording"が1970年代と比較して大きく増加しており、"self-monitoring"も1980年代に大きく増加している。この両者はほぼ同様の意味で用いられるため、全体としてはself-manegement skillの研究の多くがこれらであることがわかる。ただ、"self-reinforcement"に関しても1970年代に増加している。しかしその後減少の一途をたどっている。さらにそのなかでも、"self-instruction"が安定してある。

その3

 さて、もう一つ図を作成したみた。self-manegement skillに関する用語がそれぞれどれほどの割合で使用されているかである。なお、1960年代は論文数が少なく、また割合での比較であるため2010年代も含めた。

 1970年代においては"self-reinforcement"が20%ほどあったが、2000年代からは0%となっている。"self-recording"と"self-monitoring"は三項随伴性での先行事象とも後続事象とも成りえるため、一概にはまだ現段階では明言できないが、"self-instruction"も含めて社会的随伴性(social contingency)の検討が十分になされていないのではないかという「感じ」がする。これはもちろんさらなる調査と検討が必要であるが、少し抑えておきたい点である。

最後に

 最後に自己と他者の行動のコントロールを検討するにあたって重要な点を、Skinner(1953)が以下の用に述べている。

人は他者の行動をコントロールするのと全く同じように、行動が関数となる変数の操作を通じて、自分自身をコントロールする。そのような人の行動は適切な分析対象であり、最終的にはその人の周りに存在する変数によって説明されるべきである。

 Skinnerはセルフコントロールと他者のコントロールを大きな違いとは捉えておらず、セルフコントロールも最終的には対象となる個体外の環境に変数を求めることを強調している。ここは重要な点であろう。人は社会的な生き物であり社会的随伴性の検討は必ず必要である。それら他個体との関係も、さらに言語行動との関係も変数として十分に検討にいれながらセルフコントロールやセルフマネージメントに関しては検討していく必要があるし、実際にそれらの技術を現場で応用するにしても、以上の点を十分に考慮にいれなければならない。

 私個人としては現在、学生ジョブコーチ(Student job corch)をしているためか、最近また行動分析学を私自身で再考しているところであるが、オペラント行動は後続事象の操作こそが重要であり、そこに重点をおいた記述や研究が必要ではないかと考えている。この点も含めて今後もさらに検討をすすめたい。

引用文献

竹内康二・園山繁樹. (2007). 発達障害児者における自己管理スキル支援システムの構築に関する理論的検討. 行動分析学研究, 20, 88-100.
Skinner., B. F. (1953). Science and human behavior. New York. Macmillan. 河合伊六・長谷川芳典・高山厳・藤田継道・園田順一・平川忠敏・杉若弘子・藤本光考・望月昭・大河内浩人・関口由香 (訳). (2003). 科学と人間行動. 二弊社.